罵倒《ばとう》し、そして恥ずかしい目にからかった。
 彼女は、それでも一緒になって、キャッキャッとはしゃぎながら、自分の商売の菓子箱のくつがえるのも忘れて、抵抗したりふざけたりするのだった。
 彼らは、薄暗いデッキの上を、小犬のようにころがり回ってふざけていた。
 彼女が菓子のほかに、彼女の肉をも売るということを、波田は耳にしたことがあったが、それは想像するだけでも不可能のように思えた。彼女は女性として男性に持たせうる、どんな魅力もないように見えた。きたない男よりも醜い彼女であった。
 だのに、彼女は、やはり、うわさのように菓子以外のものも、提供することがズッとあとになって波田にもわかった。それはボースンの部屋《へや》であった。
 これは、蜘蛛《くも》と蜘蛛とが、一つの瓶《びん》の中で互いに食い殺し合うのによく似てはいないだろうか。
 だが、その日は、それらのことは一切起こらなかった。彼女の菓子は、食事の済んだ水夫らによって一つ二つ摘ままれた。
 ボースンと大工とは、彼女を、波田の寝箱の中へ押し倒すことだけは、形式的に忘れなかった。波田の寝箱の隣では、負傷のために、弱り、やせたボーイ長
前へ 次へ
全346ページ中171ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
葉山 嘉樹 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング