でわけがわからなかった。
これらは息をつく間もない瞬間に一切が行なわれた。そして、本船はグッと回った。波田も西沢も、船長までもが、そのなれにかかわらずよろめいたほど急速に。そして、今にも衝突しそうに思えた、山のような怪物、(それは軍艦だと波田と西沢は思っていた)は全速力をもって、まるで風のように左舷《さげん》の方へ消え去った。と、その怪物からは続けざまにドンドンドンと轟然《ごうぜん》たる砲声が放たれた。
哀れなる小犬のような、わが万寿丸は、今は立ちすくんでしまった。いわば、腰を抜かしたのである。むやみに非常汽笛を鳴らし、救いを求め、そこへ錨《いかり》をほうり込んだ。
今、それほど万寿丸を驚かした、軍艦のように速力の速い怪物は、百年一日のごとく動かない大黒島であり、大砲は霧信号であった。
わが万寿丸はその二十|間《けん》手前まで九ノットの速力で、大黒様のお尻《しり》の辺をねらってまっしぐらに突進して来たのだった。
あぶなかった。錨がはいると、皆は、期せずしてホッとした。
大黒島の燈台では、乱暴にも自分を目がけて勇敢に突進して来る船を認めたので、危険信号を乱発したのだった。幸い
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