理に及ぼす影響は、このブリッジにのぼって、一望ただ海波であり、一船これわが配下である時に、決してのろい速力ではなかった。団扇《うちわ》のようなこの小さな船も彼にとっては偉大であった。ことにかく霧の濃くかけた時は、船長は、二千トンのこの船を、二万トンに拡大して見ることもできた。なぜかなれば、船全体が霧のために、漠然《ばくぜん》たる輪郭をもってぼかされ、それを想像をもって拡大するからであった。
暗がり中で、だれも見ていないと知ると、急に二歩ばかり威張って、警察署長のような格好に歩いて見ることが、大抵だれにもあるように、万寿丸は、巨船のごとくに気取って航行しているように見えた。
が、それにしても不思議であった。室蘭港口に栓《せん》をしている大黒島は、もうそこに来ていなければならないはずの時間であり、コンパスであり、海図であった。にもかかわらず事実は、大黒島の燈台も霧信号音も、見えも聞こえもしないのであった。
わが万寿丸は九ノットのフルスピードをもって、船長自身ブリッジに立って、小倉の舵《かじ》を命令していた。
波田と、西沢とは各《おのおの》熱心にいかにして汽船の舵を取り、その方向を保
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