ほんとうのことをやってもかまわないだろうか。と、小倉はまだ考えを決め得ずにいるのだった。
「藤原のいうことは、昨夜《ゆうべ》の女のいったところと、どこか似てるところがあるぞ」と、小倉は、この時フト思った。「あの女は宝玉だ! だが、今はそれどころじゃない、だが、あの女がおれのことを『三上さんよりも穀つぶしよ、あんたは』といったっけなあ、だがそれや全くだった。おれはどうだ、自分のことさえ自分で考えがまるっきりつかないじゃないか、三上は一人で立派にやって行った。おれには、おれの頭にそむいて、尻尾《しっぽ》を振るブルジョア的の取引気分があるんだ。それが、すっかり、おれを台なしにするんだ、おれはなぜ藤原君のいうように、頭の命ずる通りに動かないのだろう。ああ、やっぱりおれはなめくじなんだ! おれは、労働者階級の悲惨を、決断と勇気と犠牲のないことに帰しているが、就中《なかんずく》、このおれがその中の最なるものだ。労働者階級を裏切る唯一の卑怯者《ひきょうもの》の典型を、おれはおれ自身の中に見いだした。おれは、思想として全体を憤慨する前に、おれ自身の恥さらしな、憶病者の、事大主義者の、裏切り者の、利己
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