人が、男の人を見ることよりも、もっともっと、ずっと、私たちがあなた見たいな人を見ることの方が少ないのよ。それはね、男の人は、皆|獣《けだもの》だからなのよ。
 ええ、全く獣なのよ。私はそう断言できてよ。だけどね。それや男の人の罪でもないんだわ。それはね、神様や仏様の罪なんだわ。そうでしょう。ね、自分で人間を作って置いて、自分でこれはいいあれは悪いと決めて置いて、そして、自分の作った人間を、自分の作った罪悪の中へ、まるで陥穽《おとしあな》にでも落とすようにして、はめ込んでしまうのは、それや神仏の責任だわ。だから、私のこわいのは、神仏じゃないの」
 「じゃ何がこわいんだね」小倉は眠くてたまらなかったが、女の珍しい言葉につい興奮さされて起きていたのだった。
 「私寒いから、あなたのそばへはいってもいいでしょう。ね、ただはいるだけなのだから、ね、いいこと」
といいながら、女は帯も解かずに小倉の寝床へはいって来た。そして床のすみに小さく黄金虫《こがねむし》のように固まりながら、
 「私たちはね、ほんとに心から『愛そう』と思う人を見つけることができないのよ。
 私たちが、第一、選《よ》り好みする事
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