ね」
 小倉は女を起こそうとした。女は起きなかった。そしてなおも泣き続けるのだった。
 「およし、ね。泣くのはもうおよし。どんな、苦しい事情があるか知らないが、聞かなけりゃわからない。泣くほどの事があるんだったら膝とも談合ってこともあるから、僕にでも話して気が紛れないこともないかもしれない。とても力にゃなれまいけれど、もし役に立つことがあったら、役に立つから、泣いてばかりいないで、話してごらんな。ね、僕明日の朝早く帰らなきゃならないんだからね。また二、三日か四、五日は碇泊《ていはく》してるから、毎日にでも来るから、ね。サア床を敷いておくれ」といって、小倉は女をその膝の上から抱《かか》え起こした。
 「ええ、今、床を敷くわ、ちょっと待っててね、片づけるから」ハンケチで目を押えてさびしそうに彼女はそこらの食べ散らしを片づけ始めた。小倉も彼女に手伝って、七輪《しちりん》などをかたわらへ寄せた。

     二〇

 寝床はそこへ敷かれた。それは一つであった。枕《まくら》も男枕が一つッ切りであった。
 「どうしたんだい、お前さんはなぜ泣いたりしたんだね」と小倉は、そのまま床の中へもぐり込みなが
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