魔の叫びをあげる。ミリミリ、ドタンーとうなる。その谷がやがて、ともへ行くと推進器は空中でから回りをする。推進器は、飛行機のプロペラーのように空中で回転する。凶暴なその船の太さほどの猛獣のようにほえる。特別装置のないどの棚《たな》からも、いろんなものが落ちる。ランプのカップからランプが踊り出る、舵機《だき》は非常にその効力を減じられる。速力は今ではもう推進器の空転の危険から、ほとんど三マイルぐらいに減じられて、ただ船首[#「船首」は底本では「船員」と誤記]を風の方向から転換しないようにのみすべての努力を尽くしていた。
機関室の方も汽罐室《きかんしつ》の方も、非常な困難があった。油差しは、動揺のために、機械と機械との狭い部分に入り込むのに、神秘的な注意を払った。火夫はその汽罐の前で、ショベルを持って、よろけまいとして骨を折った。
汽罐室のま上のコック場では、コックが、いつも一度で炊《た》く飯を五度ぐらいに分けて炊かねばならなかったし、お菜も同様な方法にしてなお、汁物は作るわけに行かなかった。
コロッパス(石炭運び)は、石炭庫の中で、頭じゅうをこぶだらけにするのを、どうしても免れるわけには行かなかった。
水夫らは、デッキを洗う波浪からダンブル内への浸水を護《まも》るために、ハッチカバー(船艙《せんそう》のおおい)や、それを押えた金具や、またその上から厳重にロープを通して縛らねばならなかった。それは危険な作業であった。そしてこの危険な作業なしには、この船全体が危険から免れうる方法がなかった。あだかも意地の悪い馬がなれぬ乗り手にするように、船体は猛烈にその背を振った。そしてそのたびに柄杓《ひしゃく》が水をすくうように、デッキは波浪をすくい込んだ。ロープはぬれて、固くなって操作に非常な困難と遅滞とを招いた。しかしそれは成し遂げなければならない仕事であった。ハッチが水を飲むということは、文句なしに、簡単|明瞭《めいりょう》に船体の沈没を意味するものであった。五人の水夫と、ボースンと、ストキと、大工との八人が総動員で、この仕事を遂げた。
彼らはそのからだが、そのまま凍るような風の下に、メスのように光る、そして痛い波浪に刺された。そしてそれは、あまり動かない部分をカンカンに凍らせた。
船体の危険と、船体と共にする自分自身の危険と、そして、てきめんに自分の凍えんとする肉体に
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