るようにして、その足をひきずらねばならなかった。
 三人は、それほど黙っていないで、まれには一言ぐらい何か言ったらいいだろうと思われるほど、黙ってくっついて歩いた。三人も自分で、何かその不愉快な苦痛な沈黙に反抗したいとは思っても、口をきくだけの気力がないのであった。それは何か官庁の手続きででもあるように、非常に面倒臭いことのように思われるのであった。
 道は、藤原と、波田にとっては、昨夜歩いたと同じ道であるのに、道の方が先へ向こうへすべり抜けでもするように遠く思えた。
 しかし、彼らはやがて、第二の小屋まで来た。そこは、港の最奥部で、馬蹄形の頂点になっていた。その小屋からしばらく行くと、彼らは、左へ、海岸から離れて、石炭の連峰の間に、こしらえられたトンネルを抜けて、それから、室蘭駅の機関庫のある、数十条のレールの平原を横切って、街《まち》へ出るのであった。
 彼らの一行は、第二の小屋で息を入れた。
 そこにも、沢山の人足の人たちが、まっ赤《か》に焼けたストーブのまわりに、集まっていた。
 三人は、また、そこで、人足たちに席を与えられて、そして、前と同じようなことを繰りかえした。一休みごとに、彼らは、少しずつぬれるのであった。
 やがて、一行は、レールの平原を通り越して、街に出た。そこで、ボーイ長に俥《くるま》か橇《そり》かを雇いたかったが、そんなものはなかった。波田と藤原とは、かわるがわる汗だくになりながら坂を上《のぼ》り上って、もう少し上れば、半島の頸部《けいぶ》から、大洋の見えるほど、市街の高い部分へ上って行った。そこに公立病院があった。

     三七

 受付で、診察券を買って、外科の待合室で順番を待った。まるで、言葉の通わない国へ上陸したように、不案内であった。船の生活が、彼らを、だんだん陸上においては、不具者同様にするのだ。
 白い服を着て、看護婦たちはいた。そして、美しいのもいた。けれども、波田の考えたような夢のような、女はとうとう見つからなかった。けれども、彼らは、ペンキのにおいの代わりに薬のにおいをかいだ。殺風景の代わりに、清い女の声が流れ、看護服の裳《もすそ》がサラサラと鳴った。薬のにおいの中に、看護婦の顔からは、化粧水の芳香が、蜘蛛《くも》の糸のようにあとを引いて流れた。
 椅子《いす》には頭じゅう繃帯《ほうたい》したのや、手を肩から吊《つ》
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