いるし、ボースンにしても、三上にしても、死に得た。彼らは足が立たなかったといっていた。そのはずであった。どんな大男でも、海の幅ほど丈《たけ》のあるものはないからだ。つまり彼らは、横になりながら足を突っぱろうと試みたのだ。
二人は、櫓と、舟板と洋傘とをしっかり握りしめて、人足に助け上げられた。
ボースンの荷物は、布団《ふとん》一枚と毛布一枚との包みが取りとめられた。そして、帆木綿《ほもめん》の袋の方は流れた。そして、一切は残るくまなく完全にぬれてしまった。それは、吸い取り紙が完全にぬれたように、ほとんど一切を役に立たなくしてしまった。
それは、ブリッジから、望遠鏡で見る時に、流れて行く行李《こうり》まで見えたくらいであった。
「これは痛快だ、こいつあおもしろい、ワッハッハハハハハハ、ワッハッハッハハハハハ、とてもたまらない[#「たまらない」は底本では「たまらい」と誤記]、ワッハッハハハハハ、あれを見たまえ! 舟板を虎《とら》の子みたいに抱いてるぞ、ワッハッハハハハハ」船長はころげ歩くばかりに笑い狂った。全く、それは、関係のない者から見ると、おかしい情景でもあったろうさ。チーフメーツも笑った。
おもてのウォーニンの下でも、砂丘の上の粒のような人間たちが、動揺し始めたことを見た。何だろう? と伝馬の行方《ゆくえ》をさがしたが見えない。そのうちに、ブリッジで、船長とチーフメーツが腹を抱《かか》えて笑いころげているのを見た。そこへ、ブリッジから、非番になったコーターマスターがおりて来て、ボースンの伝馬が、巻き浪に巻き込まれて顛覆《てんぷく》したが、人命だけは人足に救われたことを知らせた。
彼らは、ウォーニンの柱やレールに上《のぼ》ったり、つかまったりして、それをながめようとした。けれども、波にさえぎられて見えなかった。彼らは下に降りて、寝そべりながら、彼らについて話し合った。
夕方になって、三上は、ふくれっ面《つら》をしてボースンと共に、また帰って来て、船長に、子細を告げた。ボースンは、船長に損害賠償を要求しようとしたが、テンで、デッキまでも上がらされなかった。すでに彼は、万寿丸のデッキさえも踏み得なくなっていた。そして、一切は浪にさらわれた!
三上は、再びボースンを送って行って、夜になって帰った。
ボースンは、横浜へ帰って、全く、くず鉄の山の中の一本のねじ
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