不利であるから、これは時期を見なければいけない、これほどの少数で、完全に勝つためには機会を握ることが第一だ。その時は今ではない。だから、その時を待って力を示すために、今は忍んだ方がいい。それに今はなんでもないことなんだからと、種々《いろいろ》と話をした。
 「だが、今はいい時だがなあ、正月前だし、横浜にはギリギリに帰れるかどうか、という時なんだからなあ。条件がそろってるんだがなあ、ただ冬であるってことが悪いだけだ。ボーイ長は雇い入れなしで負傷させて打っちゃってあるし、おれたちは、全く馬車馬か奴隷かで甘んずるなら、それでもいいだろうけれど、――それに、いま時分、室蘭に休む者はありゃしないと思うんだがなあ」と波田は主戦論を唱えた。
 「だから、今は仕事をしなければならないんだろう。今は、室蘭に休んでる者があるかないか、ハッキリしてないから、今は仕事をしなければならないんだろう。その代わり、今夜上陸した時に、僕らは休んでる者があるかないかを探ることができる。で、もしいないということになれば、出帆間ぎわに船を動かさないことができるだろう。横浜まで、電報でセーラーを呼ぶにしても、いくら早くても、四日や、五日はかかるだろう。おまけに正月だ。正月早々なんだ。ね。それに、ボーイ長を今日《きょう》どういうふうに取り扱うか、それを見なくちゃ、もしボーイ長に対して、全然船から救護しないということになれば、僕らは機関部の方にも檄《げき》を飛ばして、全船の問題としなければならないと思う。
 まずいのは、三上の問題が、未解決で残ってることなんだ。船長側では、それを仕掛けの種に使うだろうと思われるんだがね。
 要するに、ほんとに、僕らの力がその一切を現わしうるのは、一切の奴隷的条件が、僕らに痛切に感得され、彼らの野獣的|殺戮《さつりく》ぶりが暴露される時だけなんだ。その時は、当分来ないか、または明日《あす》の朝来るかは、僕らが、ジッと見張っていなければならないことなんだ。ね。だから今よりも、いつか、もっと彼らの暴虐が露骨に現われて、われわれの生命を直接にも、――間接にも顧慮することなく、かえって損傷するという事実がハッキリした時の方がいいだろう。と、僕は思うんだがね」藤原は条理を尽くしてその本質と、作戦とを述べた。
 ボースンは降りて来た。衆議は一決して、藤原と波田とはボイラーの上に、西沢は、船
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