運動会の風景
葉山嘉樹
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【テキスト中に現れる記号について】
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)増産競技であった[#「あった」はママ]。
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)おそる/\
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上
あくまでも蒼く晴れ上つた空であり、渓谷には微風さへもない。
表で遊んでゐる子等が「春が来た、春が来た」と唄ひ出した。十一月三日の明治節の国民運動会の日である。
木曾川は底まで澄みきつて、両岸の紅葉を映してゐる。
私が此夏、鮎釣りに泳ぎ渡つた際、大きな蟻に臍を食ひつかれて愕いた、竜宮岩も紅葉の間に浮んで、静もりかへつてゐる。
竜宮岩といふのは、木曾川の中流に、島を為して残つてゐる一大岩塊で、高山の様子がある。そこへ登るには、ロッククライミング以外に手がない。その島の頂上に弁天様が祭つてある。その祠の前や、岩の間などに「土」のあるのを発見して、私は驚いた。
万古の流れに洗はれて、土を守り、樹木を育ててゐる島である。そんなことに驚いてゐる私の臍に蟻が食ひついたのである。大きな真つ黒い山蟻といふ奴である。臍
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