は眼に涙が一杯溜った。私は音のしないようにソーッと歩いて、扉の所に立っていた蛞蝓《なめくじ》ヘ、一円渡した。渡す時に私は蛞蝓の萎《しな》びた手を力一杯握りしめた。
 そして表へ出た。階段の第一段を下るとき、溜っていた涙が私の眼から、ポトリとこぼれた。
(大正十四年十一月)



底本:「全集・現代文学の発見・第一巻 最初の衝撃」学芸書林
   1968(昭和43)年9月10日第1刷発行
入力:山根鋭二
校正:かとうかおり
1998年10月3日公開
2001年7月14日修正
青空文庫作成ファイル:
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