の方ではチャンと見張りしていて、そんな奴あ放《ほう》り出してしまうんだ。それにそう無暗《むやみ》に連れて来るって訳でもないんだ。俺は、お前が菜っ葉を着て、ブル達の間を全《まる》で大臣のような顔をして、恥しがりもしないで歩いていたから、附けて行ったのさ、誰にでも打《ぶ》っつかったら、それこさ一度で取っ捕まっちまわあな」
「お前はどう思う。俺たちが何故《なぜ》死んじまわないんだろうと不思議に思うだろうな、穴倉の中で蛆虫《うじむし》見たいに生きているのは詰らないと思うだろう。全く詰らない骨頂さ、だがね、生きてると何か役に立てないこともあるまい。いつか何かの折があるだろう、と云う空頼《そらだの》みが俺たちを引っ張っているんだよ」
私は全《まる》っ切り誤解していたんだ。そして私は何と云う恥知らずだったろう。
私はビール箱の衝立《ついたて》の向うへ行った。そこに彼女は以前のようにして臥《ね》ていた。
今は彼女の体の上には浴衣《ゆかた》がかけてあった。彼女は眠ってるのだろう。眼を閉じていた。
私は淫売婦の代りに殉教者を見た。
彼女は、被搾取階級の一切の運命を象徴しているように見えた。
私
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