まま階段を降《くだ》って街へ出た。門の所で今出て来た所を振りかえって見た。階段はそこからは見えなかった。そこには、監獄の高い煉瓦塀《れんがべい》のような感じのする、倉庫が背を向けてる丈《だ》けであった。そんな所へ人の出入りがあろうなどと云うことは考えられない程、寂れ果て、頽廃《たいはい》し切って、見ただけで、人は黴《かび》の臭を感じさせられる位だつた。
 私は通りへ出ると、口笛を吹きながら、傍目《わきめ》も振らずに歩き出した。
 私はボーレンへ向いて歩きながら、一人で青くなったり赤くなったりした。

     五

 私はボーレンで金を借りた。そして又外人相手のバーで――外人より入れない淫売屋で――又飲んだ。
 夜の十二時過ぎ、私は公園を横切って歩いていた。アークライトが緑の茂みを打《ぶ》ち抜いて、複雑な模様を地上に織っていた。ビールの汗で、私は湿ったオブラートに包まれたようにベトベトしていた。
 私はとりとめもないことを旋風器のように考え飛ばしていた。
 ――俺は飢えてるんじゃないか。そして興奮したじゃないか、だが俺は打克《うちか》った。フン、立派なもんだ。民平、だが、俺は危くキャピ
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