「それは、まだ君が、『遺言の積り』であつて、『真実の遺言』で無いからだ、と、真実の遺言を書かせちまはなければ、プロレタリア文学はならないだらうか?」
まだしも、「それはルンペンだ」とか、「それは右翼的偏向だ」とか、何だかだといはれてる方が、楽な気持であらう。
*
Nは、それから、一ヶ月許り姿を見せなかつた。私は、非常に心配した。で、絶えず、空家の二階から、おとし穴のやうなNの借間を訪問した。Nは、党支部の仕事でゐない事が、間々あつた。
「遺言文学なんて出たら目を、気にかけないでゐてくれるやうに」と、私は願つてゐた。だが遺言よりもいゝものを書いて、苦しんでゐる、プロレタリア農民を、鼓舞し、慰め、立ち上らせてくれるやうな、素晴らしいものを、創り上げてくれるやうに、とも願つてゐた。
*
それから、一ヶ月の後に、私たちの、プロレタリア作家クラブで、朗読会をやつた。その時は、各々自作の作品を朗読するのであるが二つの素晴らしい作品が、朗読された。その一つは、私の心配してゐた、Nのものであつた。Nの小説が、中途までくると、私は、仰向けに寝転がつて、溢れる涙をそうつと、たも
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