セメント樽の中の手紙
葉山嘉樹
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)蔽《おお》われていた。
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ](大正十五年一月)
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松戸与三はセメントあけをやっていた。外の部分は大して目立たなかったけれど、頭の毛と、鼻の下は、セメントで灰色に蔽《おお》われていた。彼は鼻の穴に指を突っ込んで、鉄筋コンクリートのように、鼻毛をしゃちこばらせている、コンクリートを除《と》りたかったのだが一分間に十才ずつ吐き出す、コンクリートミキサーに、間に合わせるためには、とても指を鼻の穴に持って行く間はなかった。
彼は鼻の穴を気にしながら遂々《とうとう》十一時間、――その間に昼飯と三時休みと二度だけ休みがあったんだが、昼の時は腹の空《す》いてる為めに、も一つはミキサーを掃除していて暇がなかったため、遂々《とうとう》鼻にまで手が届かなかった――の間、鼻を掃除しなかった。彼の鼻は石膏《せっこう》細工の鼻のように硬化したようだった。
彼が仕舞《しまい》時分に、ヘトヘトになった手で移した、セメントの樽《たる》か
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