ら小さな木の箱が出た。
「何だろう?」と彼はちょっと不審に思ったが、そんなものに構って居られなかった。彼はシャヴルで、セメン桝《ます》にセメントを量《はか》り込んだ。そして桝《ます》から舟へセメントを空けると又すぐその樽を空けにかかった。
「だが待てよ。セメント樽から箱が出るって法はねえぞ」
彼は小箱を拾って、腹かけの丼《どんぶり》の中へ投《ほう》り込んだ。箱は軽かった。
「軽い処を見ると、金も入っていねえようだな」
彼は、考える間もなく次の樽を空け、次の桝を量らねばならなかった。
ミキサーはやがて空廻《からまわ》りを始めた。コンクリがすんで終業時間になった。
彼は、ミキサーに引いてあるゴムホースの水で、一《ひ》と先《ま》ず顔や手を洗った。そして弁当箱を首に巻きつけて、一杯飲んで食うことを専門に考えながら、彼の長屋へ帰って行った。発電所は八分通り出来上っていた。夕暗に聳《そび》える恵那山《えなさん》は真っ白に雪を被《かぶ》っていた。汗ばんだ体は、急に凍《こご》えるように冷たさを感じ始めた。彼の通る足下《あしもと》では木曾川の水が白く泡《あわ》を噛《か》んで、吠《ほ》えていた。
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