廓に飛下りて、逸《いち》早く改札口に向かったが、彼の乗った車輛は最後車の次であった為に、改札口を出たときは、既に一団《ひとかたま》りの人々が構外へ吐出されていた。併《しか》し相手は婦人づれであるから、確に自分の方が先に相違ないと思って、彼は工合のいゝ物蔭に立って眼を輝かしていた。
泉原はなけなしの金を費して、わざ/\マーゲートまで来ながら、とう/\グヰンの姿を見失って了《しま》った。恐らく彼女の一行はこのように遠《とお》はしりもせず、V停車場《ステーション》を離れると、じきに郊外の小駅《しょうえき》で下車して了ったものであろうか、それとも同じ終点で下りたが、彼より先に構外へ出た人々のうちに交っていたのかも知れぬ。捕えたらあゝも云おう、斯《こ》うも云おうと意気|組《ぐ》んでいた泉原は、張詰《はりつ》めた気がゆるむと、一時に疲《つか》れを感じてきた。マーゲート駅で下車した人々は停車場《ステーション》を立去って、大《おお》風が吹過《ふきす》ぎたあとのような駅前の広場に、泉原は唯ひとり残された。彼は何処へゆくという的途《あてど》もなく、海岸通りへ歩を運んだ。
装飾電燈《イルミネーション》を
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