もっと》も病人は高齢の事であり、且《か》つ衰弱が甚だしかったから、故意に枕元の窓をあけて、寒冷な夜気を吸込ませておいても、非常な影響であるという事であった。
 A夫人は係官の訊問に答えて、
「私は甥のリケットと、死んだグヰンとを一緒にする事に反対はしなかったが、良夫《おっと》は何故かグヰンを酷《ひど》く嫌っていて、そんな女と結婚するなら鐚一文《びたいちもん》もやらぬ、といっておりました。グヰンの方が余計にリケットを愛していつも附纏《つきまと》っていたので、近頃は甥も少しく鼻についていたらしかったのです。前の晩、私共は看護|疲労《づか》れで夜中の一時過ぎに臥《やす》みました。それから一二時間もしてフト気がつくと、良夫とグヰンが何事か声高にいい争っているのを耳にしましたが、余りに疲労《つか》れていたので、起きてゆく精もなく、其《その》まゝ睡《ねむ》って了《しま》ったのです。」と意味あり気にいった。
 死人に口なしでグヰンの死は一切謎であった。然しながら老人が死ねば、財産は当然A嬢の手に移る事になっている。それ故《ゆえ》真《ほん》ものゝA嬢を監禁して、其間に容貌の酷似したグヰンを身替りにして
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