帰ってお寝《やす》み。みなも早く寝たほうがいい。……べつだん何を盗まれたというわけじゃあないから、だれにも言わないほうがいい。警察へ聞こえて調べに来られたりすると、店の邪魔になるからね。さあ、もう一度よく戸締りを検《あらた》めて寝るとしよう」
と、主人は言った。
三人の女たちは押し合うようにして、狭い階段を上がっていった。
「かわいそうにね、みのりさんは波瑠子さんのことを思って見に来たのよ」
「波瑠子さんは、本気にもう店へ帰らないつもりなのかしら」
「きっと帰らないでしょう。わたしに荷物を親戚《しんせき》へ送ってくれなんて、置き手紙をしていきましたもの」
と、信子が言った。
4
『ナイル・カフェ』の奇怪な一夜が明けて、翌日の午前十一時に蒲田署の刑事が主人に会いに来た。
刑事の話によると、その朝、蒲田水明館の裏手の竹藪《たけやぶ》に若い女の惨殺死体が発見された。絞殺したうえ顔面がめちゃめちゃに叩《たた》き潰《つぶ》してあって人相は分からないが、推定年齢二十四、五歳、身長五尺二寸、頭髪の濃い色白の女で、黒と黄の斜め縞《じま》のお召しの着物に緑色の錦紗《きんしゃ》の
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