点]にいった。
「いつぞやの事はどうぞお許し下さいませ。止むを得ない事情があって、あんな事になったのでございますから……貴郎はここへ何しにいらっしたのですの。何誰《どなた》かをお訪ねなのですか?」モニカは私の顔を覗込むようにして親しげにいった。
「貴女も御存知でいらっしゃいましょう。ルグナンシェという仏蘭西人を訪ねてきたのです」
「ルグナンシェ? 貴郎はどうしてあんな恐ろしい男を知ってらっしゃるのです。あの男がこの旅館にいるのですか?」モニカは顔色を変えた。
「知っている訳ではありませんけれども、あの男にはいろいろな疑惑をかけているのです。その一つは私の友人の絵が展覧会で盗まれたのです。事件の起った少し前に、あの男は私の友人のところへいって頻りに貴女の事を訊ねていました」
 モニカは絵の紛失した事に就ては、余り興味を持っていないと見えて、深くは訊ねなかったが、
「あの男がここにいるとは、ちっとも存知ませんでした。私どうしましょう。あんな男に会ったら大変でございます」モニカは後へ引返そうとした。
「いいえ、ルグナンシェは部屋におりません。随分待っていましたが、帰って来ませんでした」
「そ
前へ 次へ
全65ページ中52ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
松本 泰 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング