いす》に腰を下ろしたわたしは、金門公園の不思議な青年の話をした。並山はわたしがそのことを酷《ひど》く気にかけているのを軽く笑って、
「そんなことはきみ、沿岸の日本人間にはざらにあることで、略奪結婚っていうやつだよ。まさかその青年が言うように、そうもむやみと人殺しはやるまいが、といっても酷い奴になると、まったく何をやりだすかしれないがね」
「そんな無茶が通るなんて、野蛮極まるじゃあないか。何とかする方法はないものかね」
「内地と違って、日本人同士の事件では警察の態度が違うからね。もっとも、見込まれるような奴はたいてい何か暗い過去を持っているらしいね。まずなんとかする方法といえば、腕力か機知かな。正面から相手を叩《たた》きつけるか、巧みに裏をかいて逃げるか。まあきみ、そんなことは心配することはないよ。それに騒いでいるのは男ばかりで、案外女のほうはなんでもないかもしれない。アメリカ三界まで来て貧乏してみたまえ、女は二人の男のどっちを選ぶか分かりはしない。内地と違って、アメリカというところは生活がもっと切実に来るからな」
と、並山は磊落《らいらく》に言うのであった。
わたしたちはそれっきり
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