端にいましたから、彼は右側です。そうです、彼は両手で右の脇腹を抱えながら前へ仆《たお》れたのです」
 それを聞くと、坂口は急に椅子から躍上って、「有難い、伯父さんは無罪だ」と叫んだ。
 エリスの言葉によればその男は彼女の右側におって、右脇腹に弾丸《たま》を受けている。然るに彼が銃声に続いて死骸を認めた時、伯父はその傍に立っていた。坂口は前夜公園の小径を入って径の二股に別れたところから右手の路をとった。左手の路は曲線《カーブ》を描いて大迂回をしながら、腰掛の傍にいて、更に北に向って走っているのであった。
 現場から右手に十間程|距《へだ》てて、真黒な影をつくっているこんもりとした雑木林があった。坂口が拳銃の音をきいた瞬間と、死骸を認めたまでの時間からいっても、右手の雑木林に潜んでいた伯父が、死骸の傍に馳つけるという暇はなし、且つ仮りに十間の距離を、殆んど一瞬のうちに走り得たとしても、坂口の立っていたところから見通しになっていた雑木林と腰掛の間を、坂口の目に触れずに通り終せる事は出来ぬ筈である。して見れば伯父は小径の二股になったところから、左手の径を通っていったものでなければならぬ。男がエ
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