ていこう。が、山に行くには元手がいる。その最大のものは体力である。体力が衰えては思う山へも登れまい。私の古いノートに残る計画は、幸い大部分が年を取ってもやれるものであるが、中に若干のものは少々手強くて、私はこれをやれるのはせいぜい三十二、三歳ぐらいまでと思っている。なぜ三十二、三歳かと言っても返事に困るが、何となくそう思われてならないのである。それまでには後五年ある。が、以前の体力を取り戻して、さらにそれ以上を蓄積するためには、五年の歳月も短かすぎて愚図愚図していられない気持になる。
 日常の瑣煩事から解放された一とき、いつも思い出されるのはそのことであり、遠い山の姿である。



底本:「日本の名随筆10 山」作品社
   1983(昭和58)年6月25日第1刷発行
   1998(平成10)年8月10日第26刷発行
底本の親本:「風雪のビバーク」二見書房
   1971(昭和46)年1月発行
入力:門田裕志
校正:Juki
2003年12月13日作成
青空文庫作成ファイル:
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