こそ風流のまじめ行脚の真面目なれ。
だまされてわるい宿とる夜寒かな
つぐの日まだき起き出でつ。板屋根の上の滴《したた》るばかりに沾《うるお》いたるは昨夜の雲のやどりにやあらん。よもすがら雨と聞きしも筧《かけひ》の音、谷川の響なりしものをとはや山深き心地ぞすなる。
きょうは一天晴れ渡りて滝の水朝日にきらつくに鶺鴒《せきれい》の小岩づたいに飛ありくは逃ぐるにやあらん。はたこなたへとしるべするにやあらんと草鞋のはこび自ら軽らかに箱根街道のぼり行けば鵯《ひよどり》の声左右にかしましく
我なりを見かけて鵯《ひよ》の鳴くらしき
色鳥の声をそろへて渡るげな
秋の雲滝をはなれて山の上
病みつかれたる身の一足のぼりては一息ほっとつき一坂のぼりては巌端に尻をやすむ。駕籠舁《かごかき》の頻りに駕籠をすすむるを耳にもかけず「山路の菊野菊ともまた違ひけり」と吟じつつ行けば
どつさりと山駕籠おろす野菊かな
石原に痩せて倒るゝ野菊かな
などおのずから口に浮みてはや二子山鼻先に近し。谷に臨《のぞ》めるかたばかりの茶屋に腰掛くれば秋に枯れたる婆様の挨拶《あいさつ》何となくものさ
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