るりの鴨居《かもい》には菅笠《すげがさ》が掛つてゐる、蓑《みの》が掛つてゐる、瓢《ひさご》の花いけが掛つてゐる。枕元を見ると箱の上に一寸ばかりの人形が沢山並んでゐる、その中にはお多福《たふく》も大黒《だいこく》も恵比寿《えびす》も福助《ふくすけ》も裸子《はだかご》も招き猫もあつて皆笑顔をつくつてゐる。こんなつまらぬ時にかういふオモチヤにも古笠などにも皆足が生えて病牀のぐるりを歩行《ある》き出したら面白いであらう。[#地から2字上げ](四月四日)
恕堂《じょどう》が或日大きな風呂敷包を持て来て余に、音楽を聴くか、といふから、余は、どんな楽器を持て来たのだらうと危みながら、聴く、と答へた。それから瞳を凝《こら》して恕堂のする事を見てゐると、恕堂は風呂敷を解いて蓄音器を取り出した。この器械は余は始て見たので、一尺ほどのラツパが突然と余の方を向いて口を開いたやうにしてゐたのもをかしかつた。それからまた箱の中から竹の筒を六、七寸に切つたやうなものを取り出した。これが蝋《ろう》なので、この蝋の表面に極めて微細な線がついてをるのは、これが声の痕《あと》であるさうな。これを器械にかけてねぢをかける
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