ごく》尤《もっとも》と思はるれど、この歌の如きは男的男を他の男が評する事故余り変にして何だかいやな気味の悪い心持になるなり。畢竟《ひっきょう》この歌にて「男らしき」といふ形容詞を用ゐたるが悪きにて、かかる形容詞はなくてもすむべく、また他の詞《ことば》を置きてもよかりしならん。[#地から2字上げ](四月二日)

『明星』所載落合氏の歌
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まどへりとみづから知りて神垣《かみがき》にのろひの釘《くぎ》をすてゝかへりぬ
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 この種の歌いはゆる新派の作に多し。趣向の小説的なる者を捕へてこれを歌に詠みこなす事は最も難きわざなるにただ歴史を叙する如き筆法に叙し去りて中心もなく統一もなき無趣味の三十一文字となし自《みずか》ら得たりとする事初心の弊《へい》なり。この歌もまた同じ病に罹りたるが如し。先づこの歌の作者の地位に立つべき者はのろひ釘《くぎ》の当人と見るべきか、もし当人が自分の事を叙すとせば「すてゝかへりぬ」といふ如き他人がましき叙しやうあるべからず。また傍観者の歌とせんか、秘密中の秘密に属するのろひ釘を見る事もことさらめきて誠《まこと》しからず、はた
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