して詠みたるものとすればそれでも善けれど、しかしそれならば「見てわれ立てば」といふが如き作者の位置を明瞭に現はす句はなるべくこれを避けてただ漠然とその景色のみを叙せざるべからず。もしこの趣向の中に作者をも入れんとならば動物園か個人の庭かをも明瞭にならしむべし。これ全体の趣向の上より結句に対する非難なりき。次にこの結句を「小雨ふりきぬ」といふ切れたる句の下に置きて独立句となしたる処に非難あり。此《かく》の如き佶屈《きっくつ》なる調子も詠みやうにて面白くならぬにあらねどこの歌にては徒《いたずら》に不快なる調子となりたり。筒様に結句を独立せしむるには結《むすび》一句にて上《かみ》四句に匹敵するほどの強き力なかるべからず。
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法師らが髯《ひげ》の剃り杭に馬つなぎいたくな引きそ「法師なからかむ」 (万葉十六)
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といふ歌の結句に力あるを見よ。新古今に「たゞ松の風」といへるもこの句一首の魂なればこそ結に置きたるなれ。しかるに「梅かをる朝」にては一句軽くして全首の押へとなりかぬるやう思はる。先づこの歌の全体を考へ見よ。こは病鶴と小雨と梅が香と取り合せたる
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