る人々の議論かな。文学上の空論は又しても無用の事なるべし。何とて実地につきて論ぜざるぞ。先づ最も善きといふ実地の歌を挙げよ。その歌の選択恐らくは両者一致せざるべきなり。歌の選択既に異にして枝葉の論を為したりとて何の用にか立つべき。蛙《かえる》は赤きものか青きものかを論ずる前に先づ蛙とはどんな動物をいふかを定むるが議論の順序なり。田の蛙も木の蛙も共に蛙の部に属すべきものならば赤き蛙も青き蛙も両方共にあるべし。我は解しやすきにも善き歌あり解し難きにも善き歌ありと思ふは如何に。[#地から2字上げ](三月二十七日)

 廃刊せられたりといひ伝へたる『明星』は廃刊せられしにあらでこのたび第十一号は恙《つつが》なく世に出でたり。相変らず勿体なきほどの善き紙を用ゐたり。かねての約に従ひ短歌の批評を試みんと思ふに敷多くしていづれより手を着《つ》けんかと惑はるるに先づ有名なる落合氏のより始めん。
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わづらへる鶴の鳥屋みてわれ立てば小雨ふりきぬ梅かをる朝
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「煩《わずら》へる鶴の鳥屋」とあるは「煩へる鳥屋の鶴」とせざるべからず。原作のままにては鶴を見ずして鳥屋
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