城門の下には猫が寐て居る。その上に「ネコ」と書いてある。輪郭ばかりであるが慥《たし》かに猫と見える。猫の右側には女の立つて居る処が画いてあるが、お児髷《ちごまげ》で振袖で下駄はいてしかも片足を前へ蹈み出して居る処まで分る。帯も後側だけは画いてある。城門の左側には自分の名前が正しく書けて居る。見れば見るほど実に面白い。城門に猫に少女といふ無意識の配合も面白いが棟の上に鳥が一羽居る処は実に妙で、最高い処に鳥が囀《さえず》つて居て最低い処に猫が寐て居る意匠|抔《など》は古今の名画といふても善い。見て居る内に余は興に乗つて来たので直《ただち》に朱筆を取つて先づ城楼の左右に日の丸の旗を一本宛画いた。それから猫に赤い首玉を入れて鈴をつけて、女の襟と袖口と帯とに赤い線を少し引いて、頭には総《ふさ》のついた釵《かんざし》を一本|着《つ》けた。それから左の方の名前の下に裸人形の形をなるべく子供らしく画いて、最後に小鳥の羽をチヨイと赤くした。さてこの合作の画を遠ざけて見ると墨と朱と善く調和して居る。うれしくてたまらぬ。そこで乾菓子《ひがし》や西洋菓子の美しいのをこの画に添へて、御褒美《ごほうび》だといふて
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