なり。「長き日の」「のどかさの」「霞む日の」「炉《ろ》塞いで」「桜咲く」「名月や」「小春日の」等そのほか如何なる題にても大方つかぬといふはなし。実に重宝なる十二字なり。あるいは
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灯《ひ》をともす石燈籠《いしどうろう》や○○○○○
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といふ十二字を得たらば「梅の花」「糸柳」「糸桜」「春の雨」「夕涼み」「庭の雪」「夕|時雨《しぐれ》」などそのほか様々なる題をくつつけるなり。あるいは
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広目屋の広告通る○○○○○
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といふ十二字ならば「春日かな」「日永かな」「柳かな」「桜かな」「暖き」「小春かな」などを置くなり。これがためには予《かね》てより新聞雑誌の俳句を切り抜き置き、いざ句作といふ時にそれをひろげてあちらこちらを取り合せ、十句にても百句にてもたちどころに成るを直《ただち》にこれを投書として郵便に附す。選者もしその陳腐|剽窃《ひょうせつ》なることを知らずして一句にても二句にてもこれを載すれば、投句者は鬼の首を獲《え》たらん如くに喜びて友人に誇り示す。此《かく》の如き模倣剽窃の時期は誰にも一度はある
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