じ今日にては必ずしもパノラマ的全景をのみ喜ぶ者には非るべけれどなほややもすれば広袤《こうぼう》の大なる場所を貴ぶの癖なきに非ず。油画にてはなけれど小き書画帖に大きなる景色を画いて独り得々たるが如きも余は久しき前より心にこれを厭はしく思へり。大景必ずしも悪からずといへども大景(少くとも家屋と樹木と道路位は完備せる)でありさへすれば画になる如く思へるは如何にしても君が大景に偏するを証すべきなり。しかし余は大景を捨てて小景を画けといふに非ず、ただ君の嗜好の偏するにつきて平生意見の衝突すれども直に言はれざりし不平をここに僅《わず》かに漏らすのみ。
 西洋へ往きて勉強せずとも見物して来れば沢山なり。その上に御馳走を食ふて肥えて戻ればそれに上こす土産はなかるべし。余り齷齪《あくせく》と勉強して上手になり過ぎ給ふな。[#地から2字上げ](六月二十九日)

 羯翁《かつおう》の催しにて我枕辺に集まる人々、正客《しょうきゃく》不折を初として鳴雪《めいせつ》、湖村《こそん》、虚子《きょし》、豹軒《ひょうけん》、及び滝氏ら、蔵六も折から来合《きあわ》されたり。草庵ために光を生ず。
 虚子後に残りて謡曲「舟弁
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