語を以て評し去ること気の毒なれど今日より見れば無論月並的の句なり。もと月並調といふ語は一時便宜のため用ゐし語にて、理窟の上より割り出だしたる語にあらねばその意義甚だ複雑にしてかつ曖昧なり。されど今一、二の例につきていはんか、前の「山吹や何がさはつて」の句をその山吹を改めて
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夕桜何がさはつて散りはじめ
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となさば月並調となるべし。こは下《しも》七五の主観的形容が桜に適切ならぬためことさらめきて厭味を生ずるなり。また「二日灸和尚固より」の句を
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二日灸和尚は灸の上手なり
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となさば月並臭気なかるべし。こは言葉遣ひの如何によりて月並調になりもしまたならずにも済むなり。二日灸といふ題もと月並的臭気を含めるに、その上に「和尚固より灸の得手」といふ如く俗調を乗気になつて用ゐし故俗に陥りしなり。極めて俗なる事を詠むに雅語《がご》を用ゐて俗に陥らぬやうにする事|天明《てんめい》諸家の慣手段《かんしゅだん》なり。また「帰り来る夫の咽《むせ》ぶ」といふは趣向のきはどき処に厭味ある者なれば全く趣向を変へねば月並調を
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