く安らかに臥《ふ》し得ば如何に嬉しからんとはきのふ今日の我希望なり。小さき望かな。最早《もはや》我望もこの上は小さくなり得ぬほどの極度にまで達したり。この次の時期は希望の零《ゼロ》となる時期なり。希望の零となる時期、釈迦《しゃか》はこれを涅槃《ねはん》といひ耶蘇《ヤソ》はこれを救ひとやいふらん。[#地から2字上げ](一月三十一日)
『大鏡《おおかがみ》』に花山《かざん》天皇の絵かき給ふ事を記して
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さは走り車の輪には薄墨にぬらせ給ひて大《おおき》さのほどやなどしるしには墨をにほはせ給へりし。げにかくこそかくべかりけれ。あまりに走る車はいつかは黒さのほどやは見え侍《はべ》る。また筍《たけのこ》の皮を男のおよびごとに入れてめかかうして児《ちご》をおどせば顔赤めてゆゆしうおぢたるかた云々
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などあり。また俊頼《としより》の歌の詞書《ことばがき》にも
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大殿《おおとの》より歌絵《うたえ》とおぼしく書たる絵をこれ歌によみなして奉《たてまつ》れと仰《おおせ》ありければ、屋のつまに女《おみな》をとこに逢ひたる前に梅花風に従ひて男の
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