ん。古学に対する彼の学説は必ず大いに聞くべきものありしならんも、今日において遺稿などの其《それ》を徴《ちょう》するに足るものなきは遺憾なり。今その歌について多少その主義を表したりと思ふものを挙げんに

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  失題
おほろかに思ふな子ども皇祖《すめおや》の御書《みふみ》に載《の》れる神の宮処《みやどころ》

  喩高階騰麿
菅《すが》の根の長き春日《はるひ》を徒《いたずら》に暮らさん人は猿にかもおとる

  題西蕃寿老人画
ことさへぐ国の長人《ながひと》さかづきに其が影うつせ妹《いも》にのません

  和安田定三作
今日よりは朝廷《みかど》たふとみさひづるや唐国人《からくにびと》にへつらふなゆめ

  備中闇師城に学舎をたてゝ漢文よませらるゝときゝて
暗四鬼《くらしき》の司人等《つかさびとたち》ねがはくは皇御国《すめらみくに》の大道《おおみち》を行け

  失題
大君《おおきみ》の御稜威加賀焼《みいつかがやく》日之本荷《ひのもとに》狂業須流奈《たわわざするな》痴廼漢人《おそのからびと》
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[#地から2字上げ](二月二十二日)

 以上挙ぐる所を以て元義の歌の如何なるかはほぼこれを知る事を得べし。元義は終始万葉調を学ばんとしたるがためにその格調の高古《こうこ》にして些《いささか》の俗気なきと共にその趣向は平淡にして変化に乏しきの感あり。されど時としては情の発する所格調の如何《いかん》を顧みるに遑《いとま》あらずしてやや異様の歌となる事なきに非ず。例

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  高階謙満宅宴飲
天照皇御神《あまてらすすめらみかみ》も酒に酔ひて吐き散らすをば許したまひき

  述懐
大《おお》な牟遅神《むちかみ》の命《みこと》は袋|負《お》ひをけの命は牛かひましき

  失題
足引《あしびき》の山中|治左《じさ》が佩《は》ける太刀《たち》神代《かみよ》もきかずあはれ長太刀
五番町石橋の上で我《わが》○○をたぐさにとりし我妹子《わぎもこ》あはれ
弥兵衛《やひょうえ》が十《と》つかの剣《つるぎ》遂に抜きて富子《とみこ》を斬《き》りて二《ふた》きだとなす
弥兵衛がこやせる屍《かばね》うじたかれ見る我さへにたぐりすらしも
吾|独《ひとり》知るとまをさばかむろぎのすくなひこなにつらくはれんか
弓削破只《ゆげはただ》名二社在※[#「奚+隹
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