墓地を占領して、死んで後迄も華族風を吹かすのは気にくはないヨ。元来墓地には制限を置かねばならぬといふのが我輩の持論だが、今日のやうに人口が繁殖して来る際に墓地の如き不生産的地所が殖えるといふのは厄介極まる話だ。何も墓地を広くしないからツて死者に対する礼を欠くといふ訳は無い。華族が一人死ぬると長屋の十軒も建つ程の地面を塞げて、甚だけしからん、といつて独り議論したツて始まらないや。ドレ一寐入しようか。……アヽ淋しい/\。此頃は忌日が来ようが盂蘭盆が来ようが誰一人来る者も無い。最も此処へ来てから足かけ五年だからナ。遺稿はどうしたか知らん、大方出来ないのは極つてる。誰も墓参りにも来ない者が遺稿の事など世話してくれる筈は無い。お隣の華族様も最う大分地獄馴れて、蚯蚓の小便の味も覚えられたであらう。淋しいのは少しも苦にならないけれど、人が来ないので世上の様子がさつぱり分らないには困る。友だちは何として居るか知らツ。小つまは勤めて居るなら最う善いかげんの婆さんになつたらう。みイちやんは婚礼したかどうか知らツ。市区改正はどれだけ捗取つたか、市街鉄道は架空蓄電式になつたか、それとも空気圧搾式になつたか知ら
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