ばかりで又金出してくれともいへず、来年の年忌にでもなつたら又工夫もつくであらうといふ事であつた。何だか心細い話ではあるが併し遺稿を一年早く出したからつて別に名誉といふ訳でも無いから来年でも出来さへすりや結構だ。併し先日も鬼が笑つて居たから気にならないでもないが何うせ死んでから自由は利かないサ、只あきらめて居るばかりだ。時に近頃隣の方が大分騒がしいが何でも華族か何かゞやつて来たやうだ。華族といや大さうなやうだが引導一つ渡されりヤ華族様も平民様もありやアしない。妻子珍宝及王位、臨命終時不随者といふので御釈迦様はすました者だけれど、なか/\さうは覚悟しても居ないから凡夫の御台様や御姫様はさぞ泣きどほしで居られるであらう。可愛想に、華族様だけは長いきさせても善いのだが、死に神は賄賂も何も取らないから仕方がない。華族様なんぞは平生苦労を知らない代りに死に際なんて来たらうろたへたことであらう。可愛想だが取り返しもつかないサ。正三位勲二等などゝ大きな墓表を建てたツて土の下三尺下りや何のきゝめもあるものでない。地獄では我々が古参だから頭下げて来るなら地獄の案内教へてやらないものでも無いが、生意気に広い
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