方からあやまります、といふので、ヂツと手を握られた時は少しポツとしたよ。地獄ではノロケが禁じてあるから深くはいはないが、あの時はほんたうに最う命もいらないと迄思つたね。したがお前の心を探つて見ると、一旦は軽はずみに許したが男のいふ言は一度位ではあてにならぬと少し引きしめたやうに見えたのでこちらも意地になり、女の旱はせぬといつたやうな顔して、疎遠になるとなく疎遠になつて居たのだが、今考へりやおれが悪かつた。お前が線香たてゝくれるとは実に思ひがけなかつた。オヤまた女が来た。小つまの連かと思つたら白眼みあひにすれ違つた。ヤヤヤみイちやんぢや無いか。今日はまアどうしたのだらう。みイちやんに逢つては実に合す顔が無い。みイちやんも言ひたい事があるであらう。こちらも話したい事は山々あるが最う話しする事の出来ない身の上となつてしまつた。よし話が出来たところが今更いつてみてもみんな愚痴に堕ちてしまふ。いはゞいふだけ涙の種だから何んにもいはぬ。只こゝからお詫びをする迄だ。みイちやんの一生を誤つたのは僕だ。まだ肩あげがあつて桃われが善く似あふと人がいつた位の無垢清浄玉の如きみイちやんを邪道に引き入れた悪魔は
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