/\死者に対する礼はつくされないものだ。僕も生前に経験がある。死んだ友達の墓へ一度参つたきりで其後参らう/\と思つて居ながらとう/\出来ないでしまつた。僕は地下から諸君の万歳を祈つて居る。……今日は誰も来ないと思つたらイヤ素的な奴が来た。蘭麝の薫りたゞならぬといふ代物、オヤ小つまか。小つまが来ようとは思はなかつた。成程娑婆に居る時に爪弾の三下りか何かで心意気の一つも聞かした事もある、聞かされた事もある。忘れもしないが自分の誕生日の夜だつた。最う秋の末で薄寒い頃に袷に襦袢で震へて居るのに、どうしたかいくら口をかけてもお前は来てくれず、夜はしみじみと更ける、寒さは増す。独りグイ飲みのやけ酒といふ気味で、最う帰らうと思つてるとお前が丁度やつて来たから狸寝入でそこにころがつて居るとお前がいろ/\にしておれを揺り起したけれどおれは強情に起きないで居た。すると後にはお前の方で腹立つて出て往かうとするから、今度はこつちから呼びとめたが帰つて来ない。とう/\おかみの仲裁でやつとお前が出て来てくれた時、おれがあやまつたら、お前が気の毒がつて、あんたほんたうにあやまるのですか、それでは私がすみません、私の
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