たら楽書するものときまつて居る。道端や公園の花は折り取るものにきまつてゐる。若し巡査が居なければ公園に花の咲く木は絶えてしまふだらう。殊に死人の墓に迄来て花や盛物を盗む。盗んでも彼等は不徳義とも思やせぬ。寧ろ正当の様に思つてる。如何に無教育の下等社会だつて――併し貧民の身になつて考へて見ると此窃盗罪の内に多少の正理が包まれて居ない事も無い。墓場の鴉の腹を肥す程の物があるなら墓場の近辺の貧民を賑はしてやるが善いぢヤないか。貧民いかに正直なりともおのれが飢ゑる飢ゑぬの境に至つて墓場の鴉に忠義だてするにも及ぶまい。花はとにかく供へ物を取るのは決して無理では無い。西洋の公園でも花だから誰も取らずに置くが若しパンを落して置いたらどうであらう。屹度またたく間に無くなつてしまふに違ひない。して見れば西洋の公徳といふのも有形的であつて精神的では無い――ヤ、大勢来やがつた。誰かと思へば矢張きのふの連中だ。アヽ深切なものだ。皆くたびれて居るだらうけれどそれにも構はず墓の検分に来てくれたのだ。実に有り難い。諸君。諸君には見えないだらうが僕は草葉の陰から諸君の厚誼を謝して居るよ。去る者は日々に疎しといつてなか
前へ
次へ
全13ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
正岡 子規 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング