小園の記
正岡子規

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)僅《わずか》に

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)鳥|翔《かけ》る様

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから2字下げ]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)いよ/\
−−

 我に二十坪の小園あり。園は家の南にありて上野の杉を垣の外に控へたり。場末の家まばらに建てられたれば青空は庭の外に拡がりて雲行き鳥|翔《かけ》る様もいとゆたかに眺めらる。始めてこゝに移りし頃は僅《わずか》に竹藪を開きたる跡とおぼしく草も木も無き裸の庭なりしを、やがて家主なる人の小松三本を栽ゑて稍《やや》物めかしたるに、隣の老媼の与へたる薔薇の苗さへ植ゑ添へて四五輪の花に吟興《ぎんきょう》を鼓せらるゝことも多かりき。一年軍に従ひて金州に渡りしが其帰途病を得て須磨に故郷に思はぬ日を費し半年を経て家に帰り着きし時は秋まさに暮れんとする頃なり。庭の面去年よりは遥にさびまさりて白菊の一もと二もとねぢくれて咲き乱れたる、此景に対して静かにきのふを思へば万
次へ
全6ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
正岡 子規 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング