わり]
 結句字余りのところ『万葉』を学びたれど勢《いきおい》抜けて一首を結ぶに力弱し。『万葉』の「うれむぞこれが生返るべき」などいえるに比すれば句勢に霄壌《しょうじょう》の差あり。
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緇素月見《しそつきをみる》
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樒《しきみ》つみ鷹《たか》すゑ道をかへゆけど見るは一つの野路の月影
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 この歌は『古今』よりも劣りたる調子なり。かくのごとき理屈の歌は「月を見る」というような尋常の句法を用いて結ぶ方よろし。「見るは月影」と有形物をもって結びたるはなかなかに賤《いや》しく厭《いと》わし。
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あないぶせ銚子《さしなべ》かけてたく藁《わら》のもゆとはなしに煙のみたつ
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「あないぶせ」とかように初《はじめ》に置くこと感情の順序に戻《もと》りて悪し。『万葉』にてはかくいわず。全くこの語を廃するか、しからざれば「煙立ついぶせ」などように終りに置くべし。下二句の言い様も俗なり。
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賤家《しずがいえ》這入《はいり》せ
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