景法を見るにしからず。例えば「赤きもみぢに霜ふりて」「霜の上に冬木の影をうす黒くうつして」と詠めるがごとき、「もみぢ」の上に「赤き」という形容語を冠《かぶ》せ、「影」の下に「うす黒き」という形容語を添えて、ことさらに重複せしめたるは、霜の白さを強く現さんとの工夫なり。その成功はともかくも、その著眼《ちゃくがん》の高きことは争うべからず。
 曙覧は擬古の歌も詠み、新様《しんよう》の歌も詠み、慷慨《こうがい》激烈の歌も詠み、和暢平遠《わちょうへいえん》の歌も詠み、家屋の内をも歌に詠み、広野の外をも歌に詠み、高山彦九郎《たかやまひこくろう》をも詠み、御魚屋八兵衛《おさかなやはちべえ》をも詠み、侠家《きょうか》の雪も詠み、妓院《ぎいん》の雪も詠み、蟻《あり》も詠み、虱《しらみ》も詠み、書中の胡蝶《こちょう》も詠み、窓外の鬼神も詠み、饅頭も詠み、杓子《しゃくし》も詠む。見るところ聞くところ触るるところことごとく三十一字中に収めざるなし。曙覧の歌想豊富なるは単調なる『万葉』の及ぶところにあらず。[#地付き]〔『日本』明治三十二年四月九日〕

 世に『万葉』を模せんとする者あり、『万葉』に用いし語の
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