もさまで感情の変るべきにあらぬに、まして短歌のごとく短くして、複雑なる主観的歌想を現すあたわず、ただ簡単なる想をのみ主とするものは、観察の精細ならざりし古代も観察の精細に赴きし後世も差異はなはだ少きがごとし。ただ時代時代の風俗政治等々しからざるがために材料または題目の上には多少の差異なきにあらず。例えば万葉時代には実地より出でたる恋歌の著しく多きに引きかえ『曙覧集』には恋歌は全くなくして、親を懐《おも》い子を悼み時を歎《なげ》くの歌などがかえって多きがごとし。
曙覧の歌、四《よつ》になる女の子を失いて
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きのふまで吾《わが》衣手《ころもで》にとりすがり父よ父よといひてしものを
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父の十七年忌に
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今も世にいまされざらむよはひにもあらざるものをあはれ親なし
髪しろくなりても親のある人もおほかるものをわれは親なし
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母の三十七年忌に
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はふ児にてわかれまつりし身のうさは面《おも》だに母を知らぬなりけり
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古書を読みて
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真男
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