くして写実に俗なる歌少し。曙覧が実地に写したる歌の中に飛騨《ひだ》の鉱山を詠めるがごときはことに珍しきものなり。
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日の光いたらぬ山の洞《ほら》のうちに火ともし入《いり》てかね掘出《ほりいだ》す
赤裸《まはだか》の男子《おのこ》むれゐて鉱《あらがね》のまろがり砕く鎚《つち》うち揮《ふり》て
さひづるや碓《からうす》たててきらきらとひかる塊《まろがり》つきて粉《こ》にする
筧《かけひ》かけとる谷水にうち浸しゆれば白露手にこぼれくる
黒けぶり群《むらが》りたたせ手もすまに吹鑠《ふきとろ》かせばなだれ落《おつ》るかね
鑠《とろ》くれば灰とわかれてきはやかにかたまり残る白銀の玉
銀《しろがね》の玉をあまたに筥《はこ》に収《い》れ荷緒《にのお》かためて馬|馳《はし》らする
しろがねの荷|負《おえ》る馬を牽《ひき》たてて御貢《みつぎ》つかふる御世のみさかえ
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 採鉱溶鉱より運搬に至るまでの光景|仔細《しさい》に写し出《いだ》して目|覩《み》るがごとし。ただに題目の新奇なるのみならず、その叙述の巧《たくみ》なる、実に『万葉』以後の手際なり。かの魚彦《なひ
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