船の事)は海上に充満せり。水船、酒船、料理船、青物船、小間物船、裁縫船、洗濯船、見世物船、蒸気風呂船、内科医船、外科医船、そのほか日常の事物坐ながらに用を弁ずべし。汽笛には符号ありて、何船にても必要ある者は汽笛を鳴らしてこれを呼ぶ。呼ばれたる移動商店はその呼び主を尋ねてその需要を満たす。便利なる事あるいは陸上に勝れり。さればその便利なるだけそれだけ混雑もまた甚だしく警察船の常に往来するにかかはらず、掏摸《すり》船の災難に罹《かか》る者少からず。平和肖像の下に置かれたる港湾裁判船は日々三十件以上の新訴訟事件を取扱はざる事なしといふ。東邦平和雑誌記者はこの東京湾の未来を論じて世界の大勢に論及し、最後に放言して
[#ここから2字下げ]
吾人《ごじん》が同胞幾百万の血を以て得たる彼万国平和の慈仁なる肖像に再び不潔の血を塗る時あらば、その時は第十一回平和会議の結果としてこれより十倍大の平和肖像を建設するの時なり。
[#ここで字下げ終わり]
といへり。しかれども世人はなほ平和の夢を貪《むさぼ》るに余念なく、宝舟と称する美術船にて今年正月二日に売り捌《さば》きたる七福神の画は未だかつてあらざるの多額
前へ
次へ
全7ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
正岡 子規 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング