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八王子に下りて二足三足歩めば大道に群衆を集めて聲朗かに呼び立つる獨樂まはしは昔の仙人の面影ゆかしく負ふた子を枯草の上におろして無慈悲に叱りたるわんぱくものは未來の豐太閤にもやあるらん。田舍といへば物事何となくさびて風流の材料も多かるに
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店先に熊つるしたる寒さかな[#地から2字上げ]鳴雪
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干蕪にならんでつりし草鞋かな[#地から3字上げ]同
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冬川や蛇籠の上の枯尾花[#地から3字上げ]同
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木枯や夜著きて町を通る人
兀げそめて稍寒げなり冬紅葉
冬川の涸れて蛇籠の寒さかな
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茶店に憩ふ。婆樣の顏古茶碗の澁茶店前の枯尾花共に老いたり。榾焚きそへてさし出す火桶も亦恐らくは百年以上のものならん。
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穗薄に撫でへらされし火桶かな
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高尾山を攀ぢ行けば都人に珍らしき山路の物凄き景色身にしみて面白く下闇にきらつく紅葉萎みて散りかゝりたるが中にまだ半ば青きもたのもし。
木の間より見下す八王子の人家甍を竝べて鱗の如し
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