かまきりは聲にも出さぬ思ひ哉
石塔に誰れが遺恨のかまきりぞ
斧たてゝ鎌切りにげる野分かな
かきよせて又蟷螂の草移り
鎌きりを石にふせるや桐一葉
かまきりのはひ渡る也鍋のつる
太刀魚の水きつて行く姿かな
稻妻や太刀魚はねる浪かしら
太刀魚の出刃庖丁にはてにけり
月にふしつ仰きつ鹿の姿哉
鹿二ツ尻を重ぬる月夜哉
棹鹿のなく/\山を登りけり
宮嶋の神殿はしる小鹿かな
門へ來てひゝと鳴きけり奈良の鹿
雌鹿雄鹿尾の上をわけてなきにけり
町へ來て紅葉ふるふや奈良の鹿
鹿の聲川一筋のあなたかな
みあかしをめぐりてなくや鹿の聲
ほつかりと月夜に黒し鹿の影
鹿一ツひよとり越を下りけり
なき/\て近よる聲や鹿二ツ
その角を蔦にからめてなく鹿か
小男鹿の尻聲きゆるあらし哉
さを鹿の萩のりこゆる嵐かな
爐にくべて紅葉を焚けば鹿の聲
鹿の聲月夜になれは細りけり
猪の男鹿追ひ行く野分哉
鹿笛を覺えて鹿を鳴かせばや
鳴き別れ又鳴きよるや女夫鹿
さをしかの晝なく秋と成にけり
小男鹿の一よさ聲を盡しけり
刈稻にけつまづいてや鹿のこゑ
御殿場に鹿の驚く夜※[#「※」は「さんずい+氣」、第4水準2−79−6、128−15]車哉
山かけり谷かけり鹿の月に啼く
岩角にのつほり立つや月の鹿
曉や霧わけ出る鹿の角
名月や眞向に立ちし鹿の形
月澄て空に聞ゆるをしかゝな
松の根にまたがつてなく小鹿哉
行く秋をすつくと鹿の立ちにけり
旅僧も淋しと申せ鹿のこゑ
谷あひにはさまりて鳴く男鹿哉
神さびて鹿なく奈良の都哉
鹿老て猿の聲にも似たる哉
十六夜や尾上の鹿に月のさす
夕月や山の裏行く鹿の聲
鹿の聲二ツにわれる嵐かな
鹿の聲ある夜はぬれて細長し
さを鹿のにげ/\はねる紅葉哉
鹿の聲隣の山へかゝりけり
岩陰に鹿の落ちあふ野分哉
谷の鹿こなたになけばかなたにも
秋風にふりたて行くや鹿の角
萩に寐て月見あげたる男鹿哉
押しあふて月に遊ぶや鹿ふたつ
吹きまくる萩に男鹿のふしど哉
三日月をすくひあげたり鹿の角
奧殿に鹿のまねする夕かな
耳出して蒲團に鹿を聞く夜哉
烏帽子きた禰宜のよびけり神の鹿
奈良の鹿やせてことさら神※[#「※」は「二の字点」、第3水準1−2−22、130−13]し
關の戸にへだてられてや鹿の聲
物置に鹿のいねたる嵐かな
しとやかに鹿の角ゆく薄哉
里の灯を見かけてなくや闇の鹿
踏み出ては月に鳴く也萩の鹿
月の鹿思ひ/\の足場かな
盜みぐひしてさへ鹿の痩せにけり
背戸へ來て鍋ふみかへす男鹿哉
神殿や鏡に向ふ鹿のふり
松に身をすつて鳴けり雨の鹿
鹿の首ねぢれて細き月夜かな
月の雁蘆ちる中へ下しけり
鮎澁ていよ/\石に似たりけり 乙州の句に 鮎さひて石となりたる川瀬哉
[#「乙州の句に 鮎さひて石となりたる川瀬哉」は「鮎澁ていよ/\石に似たりけり」の下にポイントを下げて2行で]
宮嶋や干汐にたてる月の鹿
雁いくつ一手は月を渡りけり
掛茶屋の灰はつめたしきり/\す
白露の中に乞食の鼾かな
菅笠に螽わけゆく野路哉
壁の笠とれは秋の蚊あらはるゝ
笠について一里は來たり秋の蠅
捨笠をうてばだまるやきり/\す
蜻蛉の中ゆく旅の小笠哉
鱸さげて簔笠の人通りけり
秋の蝶長柄の傘に宿りけり
下し來る雁の中也笠いくつ
旅人の笠追へけり赤蜻蜒
笠を手にいそぐ夕や河鹿鳴ク
【如意に蜻蜒のとまりし画に】
耳なくてにげるやんまの悟り哉
下駄箱の奧になきけりきり/\す
【根岸草庵】
我庵や蠧にまじはる蟋蟀
蜩に思ふことなきこじき哉
ヘソイ
乞食の腹を渡るや雁の聲
[#「ヘソイ」は「腹を」の右側に注記するような形で]
叩く尾のすりきれもせす石敲き
鶺鴒の飛び石づたひ來りけり
飛ぶさまや尾につらさるゝ石叩き
鶺鴒や岩を凹める尾の力
鶺鴒の尾にはねらるゝ蚯蚓哉
鶺鴒の糞して行くや石佛
ひよい/\と鶺鴒ありく岩ほ哉
【大磯松林舘】
汐風にすがれて鳴くやきり/\す
虫の鳴隅/\暗し石灯籠
※[#「※」は「虫へん+車」、第3水準1−91−55、133−14]の蘆にとびつく襖かな
鶺鴒や欄干はしる瀬田の橋
のイ 五條哉イ
[#「のイ」は「や」の左側に、「五條哉イ」は「瀬田の」の左側に注記するような形で]
鵙啼て秋の日和を定めけり
【大磯千疊敷】
雀ほど鶸鳴きたてゝ山淋し
情なう色のさめたり秋の蝶
澁鮎のさりとて紅葉にもならず
【三嶋社】
ぬかつけは鵯なくやどこてやら
【行脚】
我なりを見かけて鵯のなくらしき
鵯の人をよぶやら山淋し
【範頼の墓に笠をさゝげて】
鶺鴒よこの笠叩くことなかれ
神に灯をあげて戻れば鹿の聲
しづ/\と塒出の鷹や下いさみ
むら/\と雁かねたまる小池哉
澁鮎の岩關落す嵐かな
【古戰場】
螳螂も刀豆の實にくみつくか
秋の蝶動物園をたどりけり
軍艦の帆檣高し渡り鳥
蚯蚓
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