鳴けば簔虫もなく夕哉
宮嶋に汐やふむらん月の鹿
山里に魚あり其名紅葉鮒
蜩や金箱荷ふ人の息
砂濱にとまるものなし赤蜻蛉
鵙啼くや一番高い木のさきに
鰯ひく數に加はるわらは哉
押しよせて網の底なる鰯哉

【大磯二句】
鈴虫や土手の向ふは相模灘
鵙啼くや灘をひかえた岡の松

秋 植物

羽衣やちきれてのこる松のつた
かりそめの鑵子のつるや蔦※[#「※」は「木へん+色」、第3水準1−85−64、136−3]
高きびの中にせわしきつるべ哉
一ツ家の家根に蓼咲く山路かな
草むらにはつきりとさく野菊哉
         してイ
[#「してイ」は「さく」の左側に注記するような形で]
稻の穗に招く哀れはなかりけり
かたまるを力にさくや女郎花
刈萱の穗にあらはれぬ うらみ かな
           思ひ
[#「うらみ思ひ」は、「刈萱の穗にあらはれぬ」と「かな」の間に挟まれるような形でポイントを下げて2行で]
淋しさをこらへて白し男郎花
足柄や花に雲おく女郎花
何もかもかれて墓場の鷄頭花
家もなき土手に木槿の籬かな
山葛にわりなき花の高さかな
桐の雨はせをの風や庵の空

【萩と葛との合畫】
萩ゆられ葛ひるかへる夕かな

【別戀】
葛の葉をふみ返したる別哉
こぼす露こぼさぬ露や萩と葛
葛の葉の花に成たる憎さかな
唐辛子一ツ二ツは青くあれ
すさましくつツ立つさまや蕃椒
秋風に枝も葉もなし曼珠沙花
ひし/\と立つや墓場のまん珠さけ
そのあたり似た草もなし※[#「※」は「「曼」で「又」のかわりに「方」をあてる、137−11]珠沙花
野ぜんちをさゝへて咲くや※[#「※」は「「曼」で「又」のかわりに「方」をあてる、137−12]珠さけ
餘の草にはなれて赤しまんじゆさけ
酒のんだ僧の後生やまんじゆ沙花
團栗や内を覗けど人もなし
竹椽を團栗はしる嵐哉
團栗もかきよせらるゝ落葉哉
椎ひろふあとに團栗哀れ也
どんぐりの落つるや土手の裏表
どんぐりのいくつ落ちてや破れ笠
どん栗や一ツころがる納屋の隅
團栗にうたれて牛の眠り哉
桐の木に雀とまりて一葉かな
桐の木に葉もなき秋の半かな
あぜ豆のつぎめは青し稻莚
高低に螽とぶなり稻むしろ
行く秋や刀豆一ツあらはるゝ
刀豆や親王樣の齒の力
すさましややもめすむ家の蕃椒
雨風にます/\赤し唐辛子
蓼をくふ虫はあるとや唐辛子
唐辛子辛きが上の赤さかな
一すぢに思ひつめてや蕃椒
あき家に一畝赤し唐からし
唐辛子おろかな色はなかりけり
蕃椒横むいたのはなかりけり
行秋やつられてさがる唐辛子

【待戀】
唐辛子かんで待つ夜の恨哉
いつしかにくひ習ひけり蕃椒
はらわたに通りて赤し蕃椒
兼好に歌をよません唐辛子
煙にも更にすゝけず唐からし
唐辛子赤き穗先をそろへけり
盆栽の數に入りけり蕃椒
西瓜さへ表は青し蕃椒
草子にも書きもらしけり蕃椒
蕃椒心ありける浮世かな
蕃椒やゝひんまがつて猶からし
束髮の人にくはせん唐辛子
萩薄月に重なる夕かな
月の中に一本高し女郎花
世の中を赤うばかすや唐辛子
唐辛子日に/\秋の恐ろしき
唐辛子殘る暑さをほのめかす
乞食の薄をつかむ寐覺哉
桐一葉笠にかぶるや石地藏
藤袴笠は何笠桔梗笠
蘇東坡の笠やつくらん竹の春
萩薄小町が笠は破れけり
はり/\と木の實ふる也檜木笠

【古白剃髮】
蓮の實を探つて見れば坊主哉
笠賣の笠ぬらしけり萩の露
笠一ツ動いて行くや木賊刈
笠いくつ蘆の穗つたひ廻りけり
笠塚の笠を根にしてはせを哉
笠賣とならんで出たり薄賣
歌もなし朱印さひしき西瓜哉
送火の灰の上なり桐一葉

【画賛】
からぐろの黒からず茄子の濃紫
鉢植の松にも蔦の紅葉かな
        月夜
里芋の娵入したる都かな
[#「月夜」は「都」の右側に注記するような形で]
蕣や鉢に植ゑても同じ事
くりぬいて中へはいらん種ふくべ
蕣の地をはひわたる明家哉
種ふくべ何の力にくびれけん
萩の花思ふ通りにたわみけり
乞食小屋の留守にちりこむ柳哉
乞食のめんつうを干す木槿哉
乞食のぬる野は花と成にけり
水結 さら/\と水こす荻の下葉哉 千那ノ句 秋風や荻のりこえて水の音[#「水結」は上部に出ている]
[#「千那ノ句 秋風や荻のりこえて水の音」は「さら/\と水こす荻の下葉哉」の下にポイントを下げて2行で]
 〃 濱荻や水氣はなれし畑の中[#「〃」は上部に出ている]
 〃 水門に荻をすひこむ流れ哉[#「〃」は上部に出ている]

【大磯へ行く途上】
堀割になれてうつむく薄哉
堀割に風のうつむく薄哉
[#「堀割になれて」と「堀割に風の」の句の上には、この二つの句を括る波括弧あり]
むさし野は稻よりのぼる朝日哉
夕日さす山段※[#「※」は「二の字点」、第3水準1−2−22、142−15]の晩稻哉
何のかのうき名をすてゝ野菊哉
百姓の秋はうつくし葉鷄
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