3水準1−2−22、116−15]月をこぼしけり

【盃画賛】
洗ひなは箔やはげなん秋の水

【大イソ松林舘〔四句〕】
名月やどちらを見ても松許り
待宵や夕餉の膳に松の月
月出んとして鳴りたつる海の音
待宵や出しぬかれたる月のてり

【大磯〔十三句〕】
明月を邪魔せぬ松のくねり哉
足元をすくふて行くや月の汐
明月や雄浪雌浪の打ち合せ
後しざりしながら戻る月見哉
名月や小牛のやうな沖の岩
待宵の晴れ過ぎて扨あした哉
名月や汐に追はるゝ磯傳ひ
明月やとびはなれたる星一ツ
明月の思ひきつたる光かな
明月や背中合せの松のあひ
沙濱に足くたびれる月見哉
寢ころんで椽に首出す月見哉
沙濱に打廣げけり月の汐
北※[#「※」は「あなかんむり+「聰」のつくり」、第3水準1−89−54、118−7]へさゝぬばかりそけふの月
恐ろしき灘から出たりけふの月
花の都扨又月の田舍哉

【大磯蚊多し】
名月のこよひに死ぬる秋の蚊か
名月の空に江嶋の琵琶聞ん
名月やすた/\ありく芋畑

【大磯】
鎌倉に波のよる見ゆけふの月
網引の網引きながら月見哉
名月や松を離れて風の聲
名月や闇をはひ出る虫の聲

【十五夜雲多し〔三句〕】
色※[#「※」は「二の字点」、第3水準1−2−22、119−5]の形となるや雲の月
尻を出し頭を出すや雲の月
名月やもう一いきで雲の外
雲に月わざ/\はいるにくさ哉
名月やそりやこそ雲の大かたまり
新暦の十月五日月見哉
大磯へまで來てこよひ月もなし
名月や小磯は砂のよい處
沙濱に人のあとふむ月見哉
くらからばたゞ暗からで雲の月
名月に馬子と漁師の出合哉
いさり火や月を離れし沖の隅
松一ツ/\影もつ月夜哉
待宵に月見る處定めけり
名月や鶴ののつたる捨小船
名月や雌松雄松の間より

【大磯】
江の嶋は龜になれ/\けふの月

【夜半月晴】
明月やすつでのことで寐る處
明月や面白さうな波の音
孕句に雲のかゝりし月見哉
名月や松にわるいといふはなし
名月や鰯もうかぶ海の上
十六夜は待宵程に晴にけり

【大磯にて終日垂釣の人を見て】
秋風の一日何を釣る人そ
十六夜の山はかはるや月の道
厮から居待の月をながめけり
旅僧のもたれてあるく野分哉

【友に留守を訪はれて】
蜘の巣に蜘は留守也秋の風
樵夫二人だまつて霧を現はるゝ
秋の海名もなき嶋のあらはるゝ

【首途〔二句〕】
旅の旅又その旅の秋の風
はつきりと行先遠し秋の山
秋の雲瀧をはなれて山の上
秋風や鳥飛び盡す筑波山
明日の露にぬれたり淡路嶋
野分して牛蒡大根のうまさ哉
白露の庵の戸あけて物や思ふ
杉の木のたわみ見て居る野分哉
後家夜更けて烟草吹きつける天の川
名月や竹も光明かくや姫
稻妻のはなれて遠し電氣燈
ビール苦く葡萄酒澁し薔薇の花
初汐や松に浪こす四十島

【御幸寺山】
天狗泣き天狗笑ふや秋の風
名月や伊豫の松山一万戸

【義助墓】
稻妻の崩れたあとや夕嵐
十六夜の闇の底なり莊園寺
蛇落つる高石かけの野分哉

【吉敷川】
天の川よしきの上を流れけり
ていれぎの下葉淺黄に秋の風
名月や何をせむしの物思ひ
稻妻に目ばたきしたる坐頭哉
稻妻や何の梦見る兒の顏
傾城に歌よむはなしけふの月
八反帆野分に落すあをり哉
此頃は蓴菜かたし秋の風
名月はどこでながめん草枕
人力のほろ吹きちぎる野分哉
眞帆片帆瀬戸に重なる月夜哉
名月や人の命の五十年
西行はどこで歌よむけふの月
稻妻や誰が稽古のくさり鎌
名月にうなつきあふや稻の花
名月の道に茶碗のかげ白し
鐵橋や横すぢかひに天の川
針金に松の木起す野分哉
天の川凌雲閣にもたれけり
初汐や御茶の水橋あたりまで
親が鳴き子猿が鳴いて秋の風
子をつれて犬の出あるく月夜哉
稻妻をふるひおとすや鳴子引
名月や雄浪雌波の打ちがひ
いなつまや簔蟲のなく闇の闇
松風をはなれて高し秋の月
名月や谷の底なる話し聲
名月も心盡しの雲間哉
名月や思ふところに捨小舟
名月に白砂玉とも見ゆるかな
玉になる石もあるらんけふの月
名月や大海原は塵もなし
干網の風なまくさし浦の月
夕月や何やら跳る海の面
名月の一夜に肥ゆる鱸哉
名月や芋ぬすませる罪深し

秋 動物

啼に出てよる/\やせる男鹿哉
鶺鴒や三千丈の瀧の水
落鮎にはねる力はなかりけり
月の鹿尾の上/\に鳴きにけり
籠の虫皆啼きたつる小雨哉
虫賣や北野の聲に嵯峨の聲
虫賣りにゆられて虫の啼きにけり
虫賣の月なき方へ歸りけり
馬糞にわりなき秋のこてふ哉
蜩や一日/\をなきへらす
蜩に一すぢ長き夕日かな
蜩の松は月夜となりにけり
蟷螂の斧ほの/\と三日の月
かまきりのゆら/\上る芒哉
秋風や蟷螂肥て蝶細し
蟷螂は叶はぬ戀の狂亂か
蟷螂の切籠にかゝる夕かな
蟷螂や西瓜の甲かゝんとす
稻妻やかまきり何をとらんとす
かまきりの引きゆがめたる庵哉
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